今回は、医療現場での患者・利用者やその家族とのトラブルについて、
実例を挙げて紹介していきます。
今の医療体制や病院機能が変わり、入院期間の短縮や医療の高度化に伴い、
医療者と患者の接する時間も簡素化。
以前に比べ医療関係書と信頼関係がつくりににくくなり、
それがクレームにつながることもあります。
そんな中、コミュニケーションの質を高める医療メディエーションへの注目が
高まっています。
医療メディエーションとは、日常業務のどの場面で効果を発揮するのか、
また医療関係者間の連携に与える影響について解説します。
医療メディエーションについて
医療メディエーショとは、医療事故などで医師や病院など医療者側と患者側との間に
トラブルが生じた際、両者が向き合う場をつくり、両者の対話を促進して解決に導く手法。
様々な紛争を裁判以外で解決するために生まれた「メディエーション」の考えを医療現場に適用したものです。
医療メディエーションがコミュニケーションの質を高める方法とは。
まず患者や家族と医療者は「認知フレーム」(ものの見方)に違いがあります。
医療側は長年の経験から物事を言ってしまいがち・・・。
しかし患者家族は、初めてのことなど理解することも難しい状況。
ましてや入院初日など、精神的に落ち着いて判断ができない状況です。
なので、それぞれの解釈の違いが、お互いのもやもや感が募ることとなります。
言ってみれば、それぞれが違うメガネをかけているようなものです。
つまり、同じ現象に対しても見え方や認識が全く異なるわけです。
たとえば、医師に「○○の代わりに△△を注射してしまいました」と言われたとします。患者さんは「薬を間違えて注射した」・・・
どうなる?大丈夫?と心配します。
身体にどんな影響を与えるのかまではわからない。
でも、医療者なら患者にどんな症状が出るか、
どんな応急処置をしなければいけないかが理解できているはずです。
つまり、医療者は「医療者ならでは」のメガネでものを見ているのです。
よくある腰部の手術後リハビリを担当したときの話。
足のしびれが治ると思って手術を受けた患者がいたとします。
手術前、患者が医師に「しびれとれるでしょうか」と聞いたところ、
「大丈夫。」と言われたので、手術を決断しました。
手術は成功だったため、医師は「きっと患者さんも喜ぶだろう」と思いました。
ところが、患者さんからは「しびれが残った」とクレームを言われたのです。
医師にとっての「大丈夫」は、整形外科医としての経験に基づいものであり、
患者にとっての「大丈夫」はしびれが完全になくなり、
元通りになることだったのです。
手術前の説明がどのような内容だったのでしょうか?
医師は、歩けない状況になる前に手術を勧めた。
患者はしびれがとれて歩けるようになると思っている方が多いです。
しびれが残った生活はやはりしんどいようです。
足のしびれ(太ももの裏・ふくらはぎ・足の裏)の訴えが多いです。
このように、医療者・患者間のトラブルは、違うメガネをかけていることと、
説明した時に医療側は、わかってくれている。言ったよね。と思っているようです。
もっと言えば、これは医療に限った話ではありません。
たとえば法律家というメガネをかけているし、
男女や世代、文化によってもかけているメガネは異なります。
メディエーションは、それぞれに抱えた事情や背景を知り、
把握し合うことで、この認知の隔たり──両者の溝を埋める役割を果たします。
インフォームド・コンセントでのトラブル
インフォームド・コンセントなど治療内容を説明する場合、
患者やその家族に説明するが意思疎通がうまくいかなかったりした時に
医療メディエーションが活用されることもあります。
インフォームド・コンセントではきちんと情報を伝えなければならないので、
医療者側からの一方的な説明に終始しがちです。
そのため患者や家族から本音や不安を言い出せず、
誤解・不満が解消されず。後々になってトラブルにつながる恐れもあります。
どうしたら、ずれを修正するのでしょうか。
医療メディエーションの出番
医療メディエーターがいなくても、看護師などコメディカルがその役割を担うことは十分可能です。
医療者と患者家族では見え方が違うということを普段から意識しておけば、
ずれにも気がつきやすくなります。
日常的に医療メディエーションを実践してください。
医療メディエーションは他職種連携にも有効なのか
患者だけでなく、医療者間でも同様のコミュニケーションエラーはあります。医療現場では医師の指示のもとコメディカルがそれぞれの役割を担ってきたこともあって
医師の発言力が強くなりがち、という場面はあります。
コメディカルが自由に意見を述べづらい空気になってしまう。
近年、他職種連携の重要性が叫ばれていますが、そのためにはそれぞれの職種の専門性を認識し、
互いの考えを尊重することが大切。
特に回復期や慢性期など、少人数の医師と多数のコメディカルといった組織構成の施設では、職種間の認知のずれを埋め、互いの専門性をうまくコントロールすることが大事です。
医療メディエーションを取り入れたことで、チーム医療にもいい影響。
医療メディエーターのみならず、あらゆる職種のスタッフがメディエーションの考えを取り入れることで業務改善につながった、という声もあります。
医師・コメディカル・事務職員など、立場によってかけているメガネは全然違います。
互いに情報を共有しようと努めるスタンスが必要です。
もし相手の発言に引っかかっても、まずは受け止めて「どうしてあの人はあんなふうに言うのかな」とその背景について考えてみるといいでしょう。
メディエーションは幅広い分野で活用
海外では、米国やイギリスの病院では管理職に、必須スキルとしてメディエーションを
学ばせているようです。
一般企業での導入例も増えていて、管理職が部下との信頼関係を構築したり、
人事部が社員間のもめごとを調整したりといった場面で活用されています。
また子供たちにメディエーションを教えている小中学校も多いみたいです。
医療メディエーターを導入しさえすればうまくいく、というものではない。
まとめ
医療メディエーターの悩みで圧倒的に多いのは、
「病院側が理解してくれない」
院長や副院長といった病院組織のトップが医療メディエーションの意味を理解し、
現場に周知するなどして組織全体で協力してくれなければ、
メディエーターは正しく役割を果たせません。
患者家族と話す場を設けたのに、医師にぶち壊しにされてしまうこともあるようです。
上手に活用する組織文化がつくれるかどうか。そこが一番です。
この記事が少しでも他職種で患者家族に対応する時の参考になれば幸いです。
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